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児玉利文
座談インタビュー

ピストクリテリウムは
ロードレースの高さに上るのか

 

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No.4 児玉利文さん

amaterasu.matsumoto 公開日2024年2月10日

※この記事は2ページあります。

 

(児玉)
まずジャスミンってめちゃくちゃ良い奴がいて、そっから全部始まるんだけど

(松本)
ジャス”テ”ィン?

(児玉)
ジャス”ミ”ン、ジャスミン。
カナダ人で、俺と会った時はMRJ(三菱航空)のジェット機のデザイナー職かなんかで日本に来てたんだよ。

(松本)
三菱のジェットって開発中止したやつですよね。

(児玉)
そう。一宮競輪場で俺がトラックのイベント開いたときにジャスミンが来てて、何か話しかけられたんだけど、俺そん時英語ゼロで(笑)
「ウワー!外国人が来たよ!そんでめっちゃ話しかけてくるー」ってビビってただけだった。

(松本)
それが初対面なんですね。

(児玉)
多分ね。
その後に自分がSNSでRED HOOK CRITの存在を知ったんだよ。
俺は衝撃を受けて「これやべー!」みたいな投稿をしたんだよね。
そしたら即ジャスミンから連絡がきて、「お前RHC興味あんのか?ならチケット取るから行くかどうか今すぐ決めてくれ。」って。

(松本)
行動が早いっていうかフットワークが軽いですね。

(児玉)
そうなんだよ。
でアメリカのブルックリン行くことになったんだけど、たしかエントリーが300人までしかできなかったんだよね。

(松本)
それって、行って抽選外れて出れないとかなったら最悪じゃないですか

(児玉)
そうなのよ。だから俺は直接RHCの運営にお願いしますのメールをしたんだよね。
そしたらOKもらえたんだけど、次の日公式が勝手に『ニッポンの競輪選手がRHCに出場』みたいな投稿をインスタにしてて、コメントも200件くらいついてた。
一応それ全部読んだんだけど、「イチローと同い年だな。」とか書いてて、いやいや比較対象ビックネームすぎだろって(笑)

(松本)
そんなん言われたらプレッシャーやばいですね(笑)
でもスタートはそんな感じやったんですね。

(児玉)
そう。2017年に初めてRHC出てから今でもう6年?
確実にあそこから人生が変わったと思う______

photo: amaterasu.matsumoto

エキサイティングゲーム、RED HOOK CRITって知ってた?

ツール・ド・フランスやパリルーベ。コイツらは映画なら「アメリ」や「アデル、ブルーは熱い色」って感じがする。プロトンの織り成す長編映画のような緻密な物語。これは多少の思慮深さを持ってして口角を上げて楽しめるってものだ。泥酔状態のあなたが深夜0時にそれを見て何かを感じ取れる?そういうものじゃない。 対してRHCって完全に「マッドマックス怒りのデスロード」。
夜の港で行われる変速機とブレーキを拒否した固定自転車の周回走って最高にエキサイティング。止まれないのに馬鹿みたいなスピードで自転車は走るし映像も音楽も馬鹿みたいにイケてて最高。前頭前野がなくても楽しめる。

でもRHCは2019年から休止状態に入り、以降現在まで一度もレースは行われていない。皮肉にも原因はスポンサーの影響による資金難。業界の新たな立役者の幕引きとは従来の自転車競技会のそれと同じだった。
しかしピストクリテリウムという競技形式を残した。冷めやらぬ熱を世界にばら撒き、現在、RAD RACEやZURI CRIT、MISSION CRIT、King Of Track… 様々な名前でインスパイアされ、世界中の舗装路でピストバイクを競い合わせている。
感温性の低い日本のアスファルトであっても例外では無い。現役競輪選手である児玉利文もこの国で固定ギアクリテリウム「sfiDARE CRIT」を主催している。

社団法人「sfiDARE」は日本唯一のピストクリテリウム主催団体である。それは代表者である児玉利文らがRHCに出場したことで始まったシナリオだ。岐阜の平田リバーサイドプラザでのクリテリウムを皮切りに日産スタジアムや赤レンガ倉庫、サンガスタジアム。日本の自転車競技世界ではありえない一等地でピストクリテリウムを開催している。

前回、街乗りピストにフォーカスしたから今回は対極にいる競輪選手のお話。とは勿論ならない。
記するように彼の持つ顔はそれだけではない。競輪選手でありピストクリテリウムの選手、そしてオーガナイザー。自転車ショップ店長___

ということで今回は社団法人sfiDARE代表の児玉利文さんにお話を伺いました。
主に運営方面のお話ですが、大手のサイクルメディアが絶対書かないようなニッチな話題盛りだくさんで最高!
ジキルとハイドで足りない彼の話を聞いてみましょう!!

photo: Kenji Muto

1.レッドフックに行ったから。

(松本)
2023年のCMWCで開催されたクリテは凄かったですよね。
熱気もだし、何より観客もだし日本でこんなのできるんだってビックリしました。
レーン全てが人で埋まってませんでしたか?

(児玉)
あれは本当に一つのターニングポイントっていうか、流石に誇っていいんじゃないのかって思うね。「ここまで来れたんだ。」って。
俺ラッキーだったってよく言うんだけど、いや本当に俺は運だけでここまで来たと思ってるから。

(松本)
いやいや。

(児玉)
話を初めてRHC行ったときに戻すんだけど。
最初のラッキーは、アメリカ行った時になぜかAFFINITYってブルックリンの自転車ブランドがスポンサーについた事なんだよね。
RHCには2017年と2018年の2回出てるんだけど、2018年にはキーメーカーのクリプトナイトとかマンハッタンポーテージがスポンサーについた。

(松本)
凄いですね。
めっちゃ活躍したからとかですか。

(児玉)
いや正直全然走れなかったよ。
でもアメリカのスポンサーが結構ついた。勝てもしないのに(笑)
日本でもLOOPマガジンの人を通してテンプラサイクルとかパールイズミがスポンサーについてくれたりしたね。あとタイヤのコンチネンタルとかもだな。
でもこれ本当ラッキーなのよ。何回も言うけど俺本当に運だけでここまで来たと思ってるから。

(松本)
そういうもんなんですかね?
競輪選手っていう肩書がアメリカで凄いバリューだったりしたとかありませんか?
NJS認定製品なんかは向こうではすごく格式が高いって言うじゃないですか。

(児玉)
いや、どーなんだろうね。
ニューヨークではサカモトさんって元メッセンジャーの伝説的な人がいて、その人がマンハッタンポーテージとか色んな会社との仲介をしてくれたんだよ。それがデカかったとは思う。でもサカモトさんに会えたのもラッキーだしね。
そう!話変わるんだけど、2018年の2回目のRHCに行ったとき、そのサカモトさんにニューヨークを案内してもらったんだよ。その時「この人すげえんだよ!」って紹介されたのがMADSAKIさんだった。

(松本)
MADSAKIさんって全盛期のNYでメッセンジャーしてたって人ですよね。
藤原ヒロシのいるT19と一緒に日本でピストブーム起こしたっていう凄い人。
ピストっていうかアーティストとして凄い有名。

(児玉)
そうでしょ。サカモトさんがニューヨークでメッセンジャーしていたのもその時期だった筈。
でも俺ホント自転車以外のことを知らなさ過ぎて、MADSAKIさんがどういう人なのか全然知らなかったんだよね。でも姉ちゃんは知ってて、「MADSAKIさんにNYで会った。」っていうと、「いやNYでMADSAKIさんと会ったとかカッコよすぎだろ。」っていわれて。

(松本)
確かに「NYでMADSAKIさんに会った。」はカッコよすぎる(笑)

(児玉)
前回の記事で松本くんがsfiDAREのカルチャー方面のリスペクト云々って書いていたと思うんだけど、俺ああいう若干イリーガルなピストの世界について当時何も知らなかったから俺が主催しているピストクリテってそもそもピストカルチャーを全くフューチャーしてないんだよね。
ピストカルチャー的な世界が広がっていったっていうのはピストクリテを開く事になってからの話なんだよ。

(松本)
じゃあ初めに日本でピストクリテ(sfiDARE CRIT)を開催した動機っていうのは何だったんですか?

(児玉)
これね。凄く単純。1回目のRHCから帰ってきて、来年のために練習しようと思っても自分が練習できる場が日本になかったからなんだよ。

(松本)
なるほど。

(児玉)
そしたら平田リバーサードプラザって所は無料で借りれるぞって事に気付いたんだよ。
いや「最高じゃん」って(笑)

(松本)
平田クリテやっている所ですよね。

(児玉)
そう。まずそこで講習会を開いた。
でもその当時は、本当にもうねピスト乗りへの風当たりが死ぬほど強かったんだよ。
ノーブレーキピスト=全員糞野郎みたいな。

(松本)
多分NIKEのアレとかの後の時期ですよね。

(児玉)
それからだいぶ経っていたとはいえ、「競輪選手がそんなことスンの!?」とかけっこう言われて、批判みたいなメールきたりしたね。ある団体からも「けしからん。」みたいなことも言われた。

(松本)
ある団体…。

(児玉)
いや、まあそこは置いといて。
最初とかスタッフも足りないから開催地の競技連盟に協力してくれるようにも頼んだんだけど、当然OKしてくれるわけなくて。
あんときは本当にデリケートな世界に入ってしまったなって実感したよね。

(松本)
開催側の立場なら絶対難しい世界ですよね。
スケボーとかと同じでピストって乗り手側もイリーガルだったりカウンターカルチャー的な立ち位置を良しとしているタイプの人が多いじゃないですか。そうなると連盟とか協会みたいな体制的なものと迎合したくないみたいな人も相当数いると思う。「スポーツじゃねーから。」みたいな。
ピストクリテっていうスポーツを日本でやるなら、乗り手にも連盟にもバッシングされたんじゃないでしょうか?

(児玉)
いや、だから凄く難しいなって。
でも国内のピストの世界って年々健全化してきてる気はするけどね。
2022年なんて俺ら岐阜の公道でレースしてるからね。

photo: Kenji Muto
CMWCの様子

2.レースを開くと

(松本)
公道レース、ありましたよね。あれは凄すぎませんか!?
どういう経緯でOKもらえたのですか?

(児玉)
OK?そーだな、俺らもよく貰えたと思う。
岐阜は自転車レースでの公道使用許可に関しては、「国体とインターハイ以外では使わせない。」って岐阜車連が言われてたらしいんだよ、でもsfiDAREっていうよくわからない社団法人はいとも簡単にそれをやってしまったよね(笑)

(松本)
公道使用の申請は警視庁ですよね?そしたら公道レース開催における車連の立ち位置ってよくわからないんですが、公道でレースを開く場合には手続き関係で車連を通す必要はないんですか?

(児玉)
どうなんだろ?普通は通さないとだめだと思うよ。
でも自分の場合は通らなかったね。
俺のつながりのあった自治体の町長さんと警察署長が凄く仲が良かったみたいで、町長に自分が頼んだら、町長がそのまま署長に連絡してくれて、そしたらすぐにOKでたね。
ぶっちゃけコネで何とかしちゃったみたいな部分があると思う。

(松本)
そういうものか…。

(児玉)
その時自分は「なんや物事ってこんなに簡単に進むのか。」って思ってたわけよ。
でも後日きた担当の人は大変そうにしてて…、まあ簡単なわけないよね。
で、その人広辞苑みたいに分厚い書類を参考に持ってきたんだよ。そして「これはツールド美濃の時の書類です。公道使用で一番重要なのは後援なんです。」っていうわけ。
後援っていうからさ、このクラスのイベントの後援ってどんな組織なのかなって思って書類読んでみたら「内閣府」って書いてあった。

(松本)
ええ。

(児玉)
自分も「そんなんどうやって後援なってくれるんだよ。」って思ったんだけど、やっぱりそういう世界の中でも凄く自転車好きな人はいるみたいで、結局そこなんだよね。

(松本)
上の人が自転車が好きとか、担当の人がーとかそういうのに帰着するってことですか?

(児玉)
そう。
ロードレースだとKINANの社長とかもまさにそんな感じじゃない。
加藤GMってよくあんな人見つけてきたよね(笑)

(松本)
確かにKINANは海外レースとかバンバン出てるし、運営が気合入ってるって感じしますよね。

(児玉)
まあ俺が公道使用許可貰ったんは平田とか公園でレース開いて実績積んでいたのと競輪選手だからやらしてみたらっていうのがあったんだとは思う。

(松本)
やっぱり自転車関係のイベントで競輪選手の名前は強いんですね。
レースで場所借りたいですって時はどういう感じで打診していっているものなんですか。

(児玉)
打診もなにも、ぶっちゃけ人とのつながりだと思うね。コネ。
今回松本君が取材のDMくれた時に「若い子たちが運営側にまわるにはどうしたらいいのか知りたい。」みたいなことも送ってくれたと思うんだけど、俺ははっきり言って若い子達はレースに出る側でいいと思う。まずツテ無しで公道レースなんて絶対開けんし、スタッフ集めるのも大変。さらに自転車だと安全面も重要になるでしょ。俺、レース始まる前は毎回不安で死にそうになるもん。それを若い子たちがやるのはどうなの?
勿論悪いことだとは思わないけどさ。ちょっと大変すぎるよね。

(松本)
僕がそのメッセージ送ったのって、若い選手ってレースを競技者として終える人ばかりで全然プロモーターみたいになる人がいないイメージがあるからなんですよね。
それって国内で大きなレースを開くような運営方面に透明性も夢もないからだと考えてて……んー、でも、まあそうですよね。人脈あってなんぼみたいな世界だし、人が死ぬこともあるし、難しいですよね。

(児玉)
例えばコース設営に使うフェンスなんて1個1万円以上するんだよ。
まともに用意すれば1レースの設営資材の調達費だけで800万円とかいくからね。
そういう問題を若い子たちが看破するのも難しいんじゃないかな。

(松本)
フェンスってあのコースの端っこに置いてある鉄柵のことですよね。
あの辺そろえるだけで800万って、そんなにするのか…。
ちなみに児玉さんは設備面の工面はどうしてはるのですか。

(児玉)
フェンスなんかは京都車連様からレンタルしています。

(松本)
京都車連。
なんか凄く都道府県連盟の中ではかなり力があるイメージありますね。

(児玉)
京都車連って設営資材を保管しているでっかい倉庫みたいなのをもっておられるんだけど、そこからフェンス一個数百円とかで貸してくれるからね。「こんな安くていいの?利益度外視じゃん!!」ってなるよホントに。

(松本)
レンタル業やれそうですね。なんでやろ。余裕があるんですかね。

(児玉)
あれじゃん。関西シクロクロスとかが興行的に結構強いんじゃないの?うちはその京都車連様に本当にお世話になってる。
俺はレースに関してはさ、おっさんが熱を持って若い子たちに活躍できる場を与える構造を強化すべきだと思うんだよ。勿論やる気のある子にはイロハも教えてあげられるとは思うけどさ。いいじゃん若いうちはレースに出て楽しんで。

(松本)
でも児玉さんの場合、現役の競輪選手としてレースにも出てますよね。

(児玉)
いやもうね、ホントに大変なんよ。
それこそフェンスの運搬とかめっちゃきついんだけど、それしてから翌日からレースとかあるわけ。

(松本)
その場合コンディションとか大丈夫なんですか。

(児玉)
いや俺も最初の方はやっぱアスリートだから前日に変な運動とかしたくないと考えとったんよ。でもそんなこと言ってもしょうがないよね。自分が始めたことだし、やるしかないんだから。

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